まずはこの件を振り返りたい。Appleの新製品「iPhone 4」には特定の箇所を手で握ると電波が弱まるという問題が生じている。これを端に、一部のユーザーから不満の声が上がり、Appleは無料でケースを配布する措置を採った。それでも完全に不満を持つユーザーが消えたわけではなく、英Samsungはそれに目をつけた。彼らはTwitter、FacebookなどでiPhone 4への不満を口にしている消費者に対して、自社のスマートフォン「Galaxy S」との無料交換を提案した。実際に交換は行われたようだ。同社の広報担当者はこの件についてWired UKに対して次のように述べている。
「最近になってから、競合他社の製品へ不満のあるお客様からの問い合わせが増えています。我々はその製品とGalaxy Sを無料交換する形で提供することを決定しました」
最終的に何台の交換が実施されたのかは不明だが、ひとまずこのキャンペーンは終了した。
現地時間26日午後、英Samsungはキャンペーン用に準備したGalaxy Sの配布が終了したと発表している。交換用の端末はすでに残っていない。
では、そもそもキャンペーンの発案者は誰なのか？ どこの指示で始まったものなのか？ 本社は関与しているのか？ 少なくとも韓国本社が認めたものではなかったようだ。朝鮮日報は27日、英Samsungの反Apple戦略をまとめた記事を報じた。その中で、この件の実態が明らかになっている。
まず、Appleはサムスン電子から莫大な量の部品を調達している。サムスン電子にとっては大得意の優良顧客になるわけだ。一方で、製品分野に視点を移すと、両者は完全に競合している。特に、スマートフォンの中でもタッチ操作を主体とするタイプの製品市場で先行するAppleに対してサムスン電子は後れを取っている。本来であればiPhone 4がアンテナ問題で苦しんでいる今、徹底的な対抗策を打ち出したいところだったかもしれない。しかし、先に述べたように敵でもあり、顧客でもある。
その為、結局サムスン電子本社はiPhone 4のアンテナ問題に関しては一歩引いた距離を取ってきた。ところがその矢先に、英Samsungの露骨なキャンペーンが発覚。このキャンペーンは英Samsungの独断で行われたものなのだという。
朝鮮日報によれば、本社はこのキャンペーンを知った直後に中止の指示を出している。同社の常務ハ・ジュホ氏は同紙に対して「英国法人のマーケティングには問題があると判断し、直ちに中断した」と述べた。
なぜこのような事が起きたかと言えば、本社と英国法人では立場が異なるからのようだ。
重ねてになるが、本社にとってはAppleは敵であり大事な顧客だ。しかし、海外の現地法人にとっては実際に端末を販売していく上での競合に過ぎない。その敵が、特定の持ち方で電波が弱まるという問題を抱えたと知り、攻勢に出る良い機会だと捉えたようだ。
彼らのキャンペーンは多くのメディアで取り上げられ、話題になった。「Galaxy S」の知名度も向上しただろう。一般の反応としては、あまりに露骨な行為だとして批判する声もあれば、面白いと評する声もあり、半々だっただろうか。
今回に関しては韓国本社は関与していない、ということだが、本社自体も「Galaxy S」の販売においてはiPhoneへの対抗意識をむき出しにしている。表向きには英Samsungの独断という形で決着が付いたが、実際のところは当事者にしかわからない。
とにかくハッキリしていることは、今後もサムスン電子は「Galaxy S」を始めとするスマートフォンのセールスに力を入れてくることだ。そして、Apple、HTC、Motorola、RIM、Nokiaら有力メーカーとの戦いは今以上に激しさを増すだろう。
なお、この件の裏側は朝鮮日報の該当記事で詳しく紹介されている。
【情報元、参考リンク】
朝鮮日報/サムスン海外法人の反アップル広告戦略（上）
朝鮮日報/サムスン海外法人の反アップル広告戦略（下）
GAPSIS/英Samsung、iPhone4に不満のあるユーザーへ「Galaxy S」との無料交換を提供
